年頭の挨拶 2021

第36代会長
第36代会長  三村  衛
     京都大学

 会員の皆様,新年あけましておめでとうございます。令和3 年(2021 年)の年頭にあたり,謹んで新春のお慶びとご挨拶を申し上げます。

 昨年6 月の総会で会長を拝命いたしましたが,昨冬からのコロナ禍の中,移動や集会が厳しく制限され,総会をはじめとして学会活動全般がオンライン開催ということになり,理事や会員の皆様とはPC の画面を介してお会いするという状況が続いております。最も大きな影響を受けたのは,地盤工学研究発表会京都大会でした。研究発表会の歴史の中でも前例のない大会中止を余儀なくされる中,特別講演,災害報告,学会賞受賞者セッション,ディスカッションセッションをオンライン配信によって何とか皆様にお届けすることができました。会員の皆様には何とか一部でも情報提供をしようという意識をもって,学会執行部,大会実行委員会にご尽力をいただきました。一方で,非対面型会議システムが機能することも共通の理解を得てきており,学会としてZOOM のライセンスを購入し,各支部にもお渡しして効率的かつ経済的な学会運営を図るという方針で動き出しております。皆さんが一カ所に集って行う事業と,リモート・分散型で行う事業のメリハリをつけた運営を志向していくことになろうかと思います。

 毎年のように見舞われる災害に目を向けますと,昨年は令和2 年7 月豪雨により熊本を中心に九州地方から中国,中部,東北地方に至るまで甚大な被害が発生しました。地盤工学会として直ちに調査団を結成し,9 月28 日には九州豪雨地盤災害に関する中間報告会をオンラインで開催し,非常に多くの会員にご参加いただきました。河川の氾濫による被害がここ数年連続して発生しております。河川堤防については,河川工学や水工学と地盤工学の両方に関わる分野で,地盤工学会として積極的に関与してきたということではありませんでした。しかしながら,土構造物である堤防の越流や浸透による破壊問題に対して我々はきちんとメカニズムを把握し,地盤工学的知見に基づいた合理的な対策を提示する義務がございます。こうした観点から,岡村副会長を中心とする「災害調査データの蓄積と活用委員会」の設立を決めました。現在委員会の活動内容を具体化し,委員選定に向けて準備が進められています。昨年のうちに,スマホを用いた災害情報の報告・集積システムを含む,災害初動調査マニュアル試行版を作成し,現在最終版に向けて整備を進め,本年の出水期に備えて同委員会を正式に発足させる予定です。必ずしも災害調査を専門にされていない会員でも調査マニュアルを見ていただければ身近で発生した災害に際し,フットワークよく初動調査に向かうことができる仕組みができれば,発災直後から時系列に災害情報を集積することができます。災害事象の検証とともに,学会一体としての取り組みにもつながるということで,非常に期待しています。

 昨年4月に地盤品質判定士会が法人化されました。昨今の地盤災害の多発を受けて地盤品質判定士が果たす役割は一段と重くなっています。地盤災害は地盤条件によって様相が異なるため,それぞれの地域におけるきめ細かい対応が求められます。地盤品質判定士会にもいくつかの支部が設立され,こうした社会的なニーズに応えられる体制づくりも進んでいます。会員の皆さまにおかれましては,それぞれの高い専門性を活かして社会貢献をしていただくためにも,是非地盤品質判定士の資格を取得いただくようにお願い申し上げます。地盤工学会は公益社団法人として,地盤品質判定士会,試験と資格更新を担当する地盤品質判定士協議会と三者一体となって,宅地防災問題のみならず,より広範な地盤災害防止に向けた,安心で安全な社会や地域づくりを推進してまいります。

 昨年4月より地盤工学会誌の完全電子化に舵を切りました。平成28 年10 月号から学生会員への電子版配信を開始し,翌平成29 年4 月号から正会員の希望者への電子版配信を始め,時間をかけて進めてまいりました。Soils and Foundations につきましても令和2年のVol.60, No.2をもって冊子体配布を中止し,完全電子化,フルオープンアクセスという形にいたしました。紙媒体から電子媒体へというのは,地盤工学会に限らずすべての分野で大きな流れとなっております。この変化は若い世代の会員にとっては比較的スムーズに受け入れていただける一方で,諸先輩方にはご不便をおかけすることになるかもしれません。ペーパーレス化の趨勢と学会財政の改善も急務である現下の状況をご勘案いただき,ご高配を賜れば幸いと存じます。

 また会費納入につきましても学会ウェブページから行っていただくようにシステムを変更いたしました。移行期にはより丁寧なご案内とご説明が必要であるのですが,コロナ禍でシステム構築が遅れたために,ご案内時期が例年と異なったことも相まって,多くの会員の皆様にご不自由をおかけする結果となりました。次年度以降も本システムを利用していただくことになりますので,ホームページからのアクセスをわかりやすくすることや,手続きのプロセスを画像でご説明するなど丁寧な対応を考えてまいります。

 さて,令和3 年の研究発表会は山形大会ということになっております。東北支部を中心に,コロナ禍の中でいかにして魅力ある大会にするかについて検討されています。できれは会員が相集い,対面することによって大いに学術・技術的な議論を戦わせる場にしたいところではありますが,新型コロナウィルスの収束が見通せない現状を鑑み,昨年来導入しているオンライン会議方式の有効性もうまく活用した,対面・オンラインのハイブリッド型研究発表会を念頭に置いて進めています。執行部としては,感染防止のための強い制約条件の中であっても会員の皆様に満足いただける運営を心掛けるつもりです。山形大会の内容が好評であれば,令和4年以降も継続的にこうしたハイブリッド型研究発表会を実施することも考えており,コロナ禍を逆手にとった新しい形を試行してまいります。研究発表会は地盤工学会の最も重要なイベントであり,会員の皆様におかれましてはどのような形式となりましても,でき得る範囲で積極的に参画いただき,充実した研究発表会となりますようにご協力をお願い申し上げます。

 新型コロナウィルスの収束に展望が見えない中,新しい年を迎えることとなりました。本年が大きな災害に見舞われることなく,会員の皆さまにとって多幸で実り多き一年となりますことを祈念して,年頭のご挨拶とさせていただきます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。