年頭の挨拶 2022

第36代会長
第36代会長  三村  衛
     京都大学

 会員の皆様,新年あけましておめでとうございます。令和4年(2022年)の年頭にあたり,謹んで新春のお慶びとご挨拶を申し上げます。

 コロナ禍の中,令和2年6月の総会で会長を拝命いたしましたが,ご承知の通り,昨年秋に第5波が収束して,人出や社会活動が戻ってまいりますまでの間,対面での行事をほとんど行うことができませんでした。歴代会長の中で研究発表会を2度とも現地開催できなかったのは初めてだったのではないでしょうか。私の地元である京都,初めての山形といずれも準備いただいた支部の皆様をはじめ,参加を楽しみにしておられた会員各位におかれましても非常に残念であったと拝察します。また,私自身のJGS会館への訪問も昨年の総会時が就任以来初めてでありました。こうした異常事態の中,必要に迫られてではありますが,シンポジウム,国際会議,講習会,研究発表会といった学術イベントのオンライン開催,また学会の各種会議につきましてもPC越しに議論するという形が体に馴染んでしまったことが大きな意識の変革にもつながりました。会員の皆様方も,当初は不慣れな点も多かったものの試行錯誤を繰り返すうちに技術も向上し,特に違和感なく使いこなしておられるのではないでしょうか?良い面から申しますと,移動を伴わずにイベントに参加できることから,支部開催のオンライン講習会や見学会などに他支部からも多くのご参加をいただいており,活動の活性化が促されました。同じイベントであっても従来より参加者が増加したものも多く,気軽にご参加いただけることのメリットを強く感じました。移動に伴う経費削減や移動時間を仕事に振り向けられることによる効率化も副次的な効果を生み出したといえましょう。一方で,対面ならではの雑談,その中から生み出される新しいアイデアの創出といった面が失われることをデメリットとして指摘しておかなければなりません。研究発表会や講習会でも発表自体や1対1の質疑は問題ないのですが,重層的な議論が広がらず何か淡々と進んでいくという物足りなさに不満を感じておられる方も多いと思います。このように対面型とオンラインにはそれぞれの長所欠点がありますので,コロナ後の世界では両者の良い点を活かしたハイブリッド化を志向していくことになるでしょう。それぞれの立場と目的に応じて参加形態を選択し,多くの方が自分のニーズに合った方法で果実を収穫できるようなプラットフォームの提供が学会としての重要な責務と考えております。

 毎年のように見舞われる災害に目を向けますと,令和3年7月3日に熱海市において伊豆山土石流災害が発生しました。直近の網代観測地点で同日までの48時間に321 mmの降水量を記録しており,大変な豪雨であったことは間違いなく,災害の誘因ではあります。しかし,逢初川上流部の谷を埋めた土砂が根本的な素因となっていたことから,宅地という縛りを受けない残土による造成問題がクローズアップされました。地盤工学会は土木学会と共同で静岡県の調査委員会に中部支部から専門家を派遣する形で協力しております。また会長特別委員会として“「残土」の適切な取扱いに向けた地盤工学上の課題に関する検討委員会(委員長:勝見武京都大学教授)”を立ち上げ,①残土受入施設の構造と地盤工学上の留意点,②残土の品質と管理,③残土の利用の形態,④トレーサビリティの普及,⑤土の有効利用の促進と受入先の確保,を課題として活動を始めております。道路・鉄道盛土でもなく宅地でもない残土が置き去りになっていたことに鑑み,公益社団法人たる地盤工学会として,残土処理のあるべき姿を提言するというミッションを掲げて進めていただいております。まずは,令和3年7月14日には被害報告会をオンラインにて開催するとともに,研究発表会でもATC10主催のDSで取り上げていただき,情報の発信と共有を図りました。

 またトンネル工事による地盤陥没事故が続けておこり,インフラ整備に関わる技術に対する社会の不信感を抱かせることになりました。令和2年6月12日,30日に横浜市・環状2号線において,相鉄・東急直通線のシールドトンネル工事に起因する陥没事故が,同年10月18日には調布市において東京外かく環状道路本線シールドトンネル工事に起因する陥没事故が立て続けに発生しました。こうした問題は土木業界は言うまでもありませんが,地盤に関連する事故ということで,その専門集団である地盤工学会にとっても大変深刻な事態であると認識しております。学会員からも関係する委員会に参画し,問題の検討と解決に大いに尽力いただいております。改めて,目視できない地盤内部の構造や構成土質の力学特性をいかにして正しく把握して実施工に結び付けるかが問われています。こうした問題には,地盤工学だけでなく,地質学的な知見を併せてアプローチする必要があります。例えば,平成25年3月に関西支部から「地下建設工事においてトラブルが発生しやすい地盤の特性とその対応技術に関する研究委員会(橋本正委員長)」報告書が,令和3年11月には関東支部から「地盤工学のあり方―応用地質学と地盤工学の協働を考える―研究委員会(末岡徹委員長)」報告および提言(案)が出されています。いずれも土木工事の安全な施工にとって地質リスク把握と評価の必要性を強く指摘していることは改めて指摘しておかなければなりません。地盤のトラブルを予見し,適切に対応するためには,地質情報を適切に解析モデルに取り込んで,工学的検討に活かす枠組みが不可欠であり,そろそろ本気で取り組むべきだと考えています。今後展開される大深度地下開発やリニア新幹線整備への国民の不安や懸念を醸成するようなことがあってはなりません。

 こうした社会情勢の中にあって,地盤品質判定士が果たす役割は一段と重くなっています。一昨年の4月に法人化された地盤品質判定士会にはいくつかの支部が設立され,地方自治体との協定の締結を含む協力体制の整備が進み,社会的なニーズに応えられる体制を着々と構築しております。会員の皆様におかれましては,それぞれの高い専門性を活かして社会貢献をしていただくためにも,是非地盤品質判定士の資格を取得いただくようにお願い申し上げます。引き続き,地盤工学会は公益社団法人として,地盤品質判定士会,試験と資格更新を担当する地盤品質判定士協議会と三者一体となって,宅地防災問題のみならず,より広範な地盤災害防止に向けた,安心で安全な社会や地域づくりを推進してまいります。

 本稿を執筆しております11月下旬時点では,第6波への警戒感はあるものの,新型コロナウィルスの猛威も収束に向かいつつあり,コロナ禍後における社会活動のあり方を考えながら新しい年を迎えることとなりそうです。地盤工学会もオンライン化の果実を活用しつつ人的交流の再開を合わせたハイブリッド化を進め,会員と社会に専門家集団としての十分な貢献ができるように努めてまいります。本年の研究発表会は新潟市で開催予定ですが,現地で皆様方とお会いできることを期待するとともに,本年が大きな災害に見舞われることなく,多幸で実り多き一年となりますことを祈念して,年頭のご挨拶とさせていただきます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。