令和2年度地盤工学会賞受賞者が、令和3年3月19日の理事会において決定いたしました。なお、学会賞は6月4日の第63回通常総会で授与いたします。
※以下は受賞業績名をクリックすると業績内容が表示されます※
◆令和2年度地盤工学会賞受賞者の決定◆(PDF 313KB)
(注:受賞者の所属は応募当時,掲載は応募順)
【技術賞部門】
賞の名称 | 受賞業績名 | 受賞者 |
技術業績賞 | 特殊な条件の礫質地盤における直接基礎高架橋の選定と設計・施工 | (独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (公財)鉄道総合技術研究所 |
●授賞理由:九州新幹線工事での多様な岩質の玉石混り砂礫層において,地盤を適正に評価して直接基礎の採用の可否を検討した業績である。原位置せん断摩擦試験,GPサンプリング試料での三軸圧縮試験,異なる寸法載荷板(φ300,600,1,000)を用いた平板載荷試験を実施,非線形有限要素解析により載荷幅依存性を推定した。また,橋脚・高架橋基礎部分では,小型FWD試験を実施して平面的に支持地盤を判定した。工事延長約4.6kmの高架橋建設に必要な約1,000本の場所打ち杭を直接基礎とし,大幅なコストと工期の縮減を実現した。ばらつきの大きな地盤条件を詳細な調査,検討により克服した取り組みは,技術業績賞にふさわしいと認められた。 | ||
技術業績賞 | 駅前交差点直下における大規模アンダーピニングと先行導坑を用いた工程短縮による鉄道新駅の建設(相鉄・東急直通線 新横浜駅地下鉄交差部土木工事) | 横浜市交通局 鹿島・鉄建・不動テトラ・NB建設共同企業体 |
●授賞理由:本業績は,新横浜駅前の幹線道路交差点,かつ,大規模円形歩道橋直下という厳しい施工環境の下で,工期短縮を図りつつ,既存の市営地下鉄新横浜駅をアンダーピニングする工事で用いられた一連の技術に関するものである。国内初のアンダーピニング用導坑先行掘削による工事期間の大幅短縮,CIMによる情報化管理技術と「変位・荷重を自動制御するシステム」による地下鉄躯体アンダーピニングの高精度施工が達成されている。幹線道路交差点直下という厳しい施工環境の下で,周辺環境に影響を与えることなく,大規模アンダーピニングを実現した社会的な貢献度は高く評価されるものである。以上より,技術業績賞にふさわしいと認められた。 | ||
技術開発賞 | 地盤剛性に基づく遮水性盛土の面的な締固め管理手法の開発 | 坂本 博紀((独)水資源機構) 小林 弘明(鹿島建設(株)) 福島 雅人(電源開発(株)) 龍岡 文夫(東京理科大学) 曽田 英揮((一財)国土技術研究センター) |
●授賞理由:本業績は,多数の室内試験と現場盛立試験に基づき,地盤剛性指標の上限値管理に基づく新たな遮水性盛土の遮水性能の管理法を開発したものである。同手法は,落球探査法による管理,ローラ加速度応答法による管理,の二段階からなり,実際の施工期間のデータの解析に基づき,遮水性盛土の迅速な品質管理を一定の精度を確保して実現できることが確認されている。本開発によって,地盤剛性指標の高頻度あるいは連続的な測定による盛土の遮水性に関する品質の面的管理が可能になり,その結果,品質確認できる現場盛土の範囲の大幅な拡大,比較的少数の抜取検査方式では見落とす可能性がある局所異常箇所の発見など,品質と生産性の向上が期待される。以上より,技術開発賞としてふさわしいと認められた。 | ||
技術開発賞 | 大成建設(株) 富士化学(株) (株)精研 |
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●授賞理由:本業績は,大深度かつ長距離のシールド工事において,凍結工法を用いて,効率的かつ安全にビット交換を行うための「難凍結性加泥材」を開発したことにより成し遂げられたものである。この技術により,工事におけるコスト削減,安全性の向上ならびに環境負荷の低減を同時に実現している。本技術は既に現場へ適用され,その有用性が確認されている。また,次なる現場への適用も計画されている。多数の対外発表も行われており,今後の地盤工学の発展に寄与することが期待される。さらに,低炭素社会の実現にも大きく貢献するものである。以上より,本業績は技術開発賞としてふさわしいと認められた。 |
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技術開発賞 | 最新無線技術により省力化したトンネル天端傾斜計による切羽前方地山の予測技術 | 谷 卓也(大成建設(株)) 坂井 一雄(大成建設(株)) 水野 史隆(大成建設(株)) 青木 智幸(大成建設(株)) 工藤 直矢(大成建設(株)) |
●授賞理由:本技術は,これまで多くのトンネルで利用されてきたSchubert and Budilが提案したトンネル軸方向変位(L)を断面内変位(S)で割った値L/Sによる切羽前方地山予測手法と異なり,トンネル内に埋設した高精度傾斜計の傾斜角度により切羽地山予測を行う点に独自性がある。傾斜角度による予測手法については,数値解析により検証し,日本国内の4山岳トンネルでの現場実証でも地山予測への有効性が裏付けられ,現在も2現場で活用されている。また,当初のBluetooth通信によるデータ転送及び計測の完全ケーブルレス化に引き続き,LPWA(低消費電力工範囲)無線による継続した技術開発にも取り組みデータ回収の完全自動化を行い,切羽前方の地山予測の大幅な省力化に成功している。これまで運用してきた現場データの他,今後適用される現場のデータの蓄積により研究の発展も期待できる。以上より,技術開発賞としてふさわしいと認められた。 |
【研究・論文賞部門】
賞の名称 | 受賞業績名 | 受賞者 |
研究業績賞 | 砂質地盤の液状化強度・変形特性に及ぼす年代効果の影響とその評価手法に関する研究 | 清田 隆(東京大学生産技術研究所) |
●授賞理由:本業績は,砂質地盤の液状化特性の年代効果に関して,先駆的な試験法の開発,精緻な実験と数多くの現場被害調査や事例解析などの結果に基づき,長年の研究を積み重ね,学術および技術の発展に大きく貢献した貴重な成果である。土粒子構造とセメンテーションに着目した年代効果の統一的な学術的解釈に基づいて,原位置試験と室内試験を融合した調査によって現地盤の液状化強度比の推定の高精度化を可能にした。また,個々の地盤に固有の年代効果を現行の地質調査技術を用いて定量的かつ合理的に評価することを可能にし,実務にも大きく貢献している。一連の研究業績は構造物の地盤耐震設計の合理化,液状化防災に関わる技術を総合的に発展させたものとして高く評価される。以上より,研究業績賞としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (和文部門) |
土壌汚染対策法に基づく調査結果からみた西大阪地域における自然由来重金属等の土壌溶出量の特徴 | 伊藤 浩子((一財)地域地盤環境研究所) 勝見 武(京都大学) |
●授賞理由:本論文は,自然由来の重金属等を含む地層で建設工事を行うに当たって,西大阪地域を対象として重金属等(基準不適合件数が多い鉛・砒素・ふっ素・ほう素を対象)の濃度のレベルを定量的に把握したものである。この成果は,すべての発生土を処分するのではなく,リスクに配慮しながら,有効利用する制度を確立するために,必要となる科学的根拠を例示しており,有用性が高いと考えられる。また,示された事例は,他地域にも応用でき,様々な実現場で活用することが可能である。さらに,地質学的な観点から考察を加えるなど,学術的に重要な知見も示している。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (和文部門) |
砂地盤への杭貫入における微視的現象観察へのAEトモグラフィ法の適用に関する模型実験 | 濱口 隼人(首都高速道路(株)) 毛 無衛(中国 同済大学) 古関 潤一(東京大学) |
●授賞理由:本論文は,最新のAE計測・分析技術によるAEトモグラフィ法の地盤材料への適用を目的としている。地盤材料は,金属に比べAEの距離減衰が著しく大きく,AE波伝播が異方性を有するために発生源の位置標定は困難であるとされてきたが,高感度センサーの使用やセンサー配置の工夫によって標定精度の向上が可能であることを明らかにした。また,砂地盤への杭貫入に伴い杭の直下にできたノーズコーン状の圧縮領域で発生すると考えられる粒子破砕を非破壊計測で確認したことは,地盤の巨視的な変形・破壊挙動と微視的な現象との因果関係の解明につながる成果として高く評価される。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。 |
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論文賞 (英文部門) |
Hybrid numerical tool for nonlinear analysis of piled rafts | Heitor Cardoso Bernardes(Federal University of Goias) Sofia Leão Carvalho(Federal University of Goias) Maurício Martines Sales(Federal University of Goias) Sylvia Regina Mesquita de Almeida(Federal University of Goias) Márcio Muniz de Farias(University of Brasilia) Flávio Augusto Xavier Carneiro Pinho(Federal University of Goias) |
●授賞理由:本論文は,パイルドラフト基礎におけるラフト,地盤および杭の相互作用ならびに杭の非線形応答や配置の影響等を評価するため,軸対称有限要素解析と平板有限要素解析を結合させたハイブリッド解析ツール(SoFIA)を新たに提案したものである。これにより,ラフトの形状や力学的特性等を考慮しつつ,大ひずみ領域までのパイルドラフトの挙動を低計算コストで予測できるとしている。本論文では,既存ツールによる解析結果と既往模型試験結果との比較に加え,既存現場計測データとの比較を通じて本ツールの有用性を示しており,このことから,本ツールにより信頼性とより高い効率性を有する当該基礎の設計計算が期待できると考えられる。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (英文部門) |
Collapse of concrete-covered levee under composite effect of overflow and seepage | 高橋 英紀((国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所) 森川 嘉之((国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所) 森 信人(京都大学防災研究所) 安田 誠宏(関西大学) |
●授賞理由:本論文は,2011年東日本大震災の大津波で発生した堤防の崩壊現象について精査している。特に,コンクリート版で被覆された堤防に焦点を当て,系統的に遠心模型実験を実施することで堤防破壊メカニズムを検討している。遠心模型実験では,相似則の検討や過去の大型模型実験との比較検証を行うことで,本論文で用いた実験手法の妥当性を示している。また,越流だけでなく地盤内の浸透現象にも着目して実験を実施することで,越流・浸透の両方が堤防の破壊に寄与していることを明らかにしている。堤防の破壊メカニズムを明らかにすることで,今後の設計や既存施設への対策が可能となり,新たな技術開発や実務に対する貢献度も高い。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (英文部門) |
Applicability of the generalized scaling law to a pile-inclined ground system subject to liquefaction-induced lateral spreading |
上田 恭平(京都大学防災研究所) 澤田 凱人(関西電力(株)) 和田 冬馬(三菱商事(株)) 飛田 哲男(関西大学) 井合 進((一社)FLIPコンソーシアム) |
●授賞理由:本論文は,重力場と遠心力場の模型実験相似則を組合せた拡張型相似則の適用性を実証的に検証した研究である。模型杭を含む傾斜した飽和砂地盤に地震動を入力し,過剰間隙水圧挙動や地盤の側方流動,模型杭の変形挙動を調査する模型実験を取り上げ,相似比配分の異なる複数の実験に対して実スケール換算挙動を比較した。その結果,加振中の土の累積せん断ひずみが10%のオーダーであれば,拡張型相似則が適用可能であることを示した。本成果は実スケール換算でより大規模な模型実験を可能とする点に優れており,地盤~構造物系の複雑な相互作用現象の解明に貢献することが期待できる。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 | Studies on multiple liquefaction properties of sand with initial static shear |
森本 時生(Imperial College London) |
●授賞理由:傾斜地盤や構造物近傍の地盤の液状化は,側方流動や構造物の沈下・破壊に直結するため,防災上の非常に重要な研究課題である。本業績では,せん断ひずみ50%を超える大変形を扱うことができる多層リングせん断試験装置を活用し,初期せん断応力下で等体積繰返しせん断を与えて液状化させる過程を複数回繰返す実験を行っている。結果として,初期せん断応力下で液状化した地盤に,初期せん断応力と逆方向のせん断応力に対して弱くなる誘導異方性が発達することを示した。また,大きなせん断履歴を受けた砂地盤の液状化強度は低く,小さなせん断履歴を受けた砂地盤の液状化強度は高いという理解が,初期せん断応力下でも成立することを立証し、せん断履歴が液状化強度に及ぼす関係の普遍性を示している。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 | Experiments and FE-analysis of 2-D root-soil contact problems based on node-to-segment approach | 友部 遼(豊田工業高等専門学校) |
●授賞理由:本論文は,風水害に伴う地盤災害に対する効果的な地盤減災手法のひとつとして,土構造物に侵入する植生に着目し,植生と土の力学的相互作用を定量的に評価する材料試験法と,その数値解析手法について論じたものである。植物根と土の力学的相互作用を植生の地盤保護効果を活用し,かつ植生による地盤機能の低下を抑制するためには,植生と土の力学的相互作用を評価し予測することが必要であり,本論文は植生等を利用した少コストな地盤減災方法,堅牢かつ少コストな地盤構造物の設計方法,および土質力学と生体力学の接続といった社会的ニーズに先進的に対応しているものとして高く評価できる。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 | Development and verification of a soil–water coupled finite deformation analysis based on u–w–p formulation with fluid convective nonlinearity | 豊田 智大(名古屋大学減災連携研究センター) |
●授賞理由:本論文は,間隙水の静的浸透を仮定するいわゆる一般的な水-土骨格連成解析手法ではなく,動的浸透も考慮可能な水-土骨格連成解析手法を開発している。既存の静的浸透を仮定する連成解析手法では,高透水性土の変形やそれに伴う間隙水の輸送現象を解くことが困難であった。本論文では,混合体の運動方程式に液相の運動方程式を陽に連立し,間隙水流速を直接求める解析手法を新たに構築することで,高透水性土の間隙水の慣性に起因して生じる水-土連成現象を解くことに成功している。今後,高透水性地盤に構築された河川堤防や港湾構造物における耐震性能照査や,グラベルドレーン工法の効果検証などへの適用も期待できる。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 |