令和3年度地盤工学会賞受賞者

◆令和3年度地盤工学会賞受賞者の決定◆

令和3年度地盤工学会賞受賞者が、令和4年3月17日の理事会において決定いたしました。なお、学会賞は6月14日の第64回通常総会で授与いたします。

令和3年度地盤工学会賞受賞者の決定(PDF 256KB)
(注:受賞者の所属は応募当時,掲載は応募順)

【技術賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者
技術業績賞 九州新幹線(武雄温泉・長崎間)におけるGRS構造物の標準化に向けた取り組み (独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構
(公財)鉄道総合技術研究所
●授賞理由:本業績は、現在建設中の九州新幹線(武雄温泉・長崎間)のほぼ全ての土構造物に、起伏に富む地形条件にも柔軟に適用可能で、高い耐震性を有し、建設費・維持管理費の面で優れているGRS構造物(盛土補強土擁壁、GRSトンネル坑門、補強土橋台、GRS一体橋梁等)を採用し、かつこれを実現するために設計・施工指針の整備等、標準化を図ったものである。さらにGRS一体橋梁の長スパン化を図り、GRS構造物の適用範囲を拡大させた。本路線における一連の取り組みは、これまでのGRS構造物に関する多くの研究や開発を実用レベルの技術として定着させ、今後の更なる技術発展に大きく寄与した事例である。以上より、技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術業績賞 文化財的価値と地震時安全性を両立した熊本城天守閣石垣復旧工事 熊本市文化市民局
(株)大林組
●授賞理由:本業績は、2016年4月熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城天守閣石垣の修復事業であり、国が指定する特別史跡の石垣において、原形復旧に留まらず、石垣自体への補強を図った我が国初の好事例である。本事業では、振動台実験によってレベル2地震動相当の地震加速度で崩壊しないことが実証された石垣耐震補強工法「グリグリッド」を採用する等、今後の日本各地の石垣の修復と耐震性向上のモデルケースになることが期待される。設計者・施工者、熊本城の管理者である熊本市役所、文化庁・有識者委員会が一体となった本事業は、熊本市民・県民に親しまれる熊本城天守閣石垣の復興を実現している。以上より、技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術業績賞 平成30年北海道胆振東部地震により被災した札幌市清田区里塚地区の市街地復旧プロジェクト 札幌市建設局市街地復旧推進室
札幌市清田区里塚地区市街地復旧技術検討会議
(国土技術政策総合研究所、土木研究所、寒地土木研究所)
石川 達也(北海道大学大学院工学研究院)
渡部 要一(北海道大学大学院公共政策学連携研究部)
山下 聡(北見工業大学工学部)
川尻 峻三(北見工業大学 地域と歩む防災研究センター)
川口 貴之(北見工業大学 地域と歩む防災研究センター)
五洋・伊藤特定共同企業体
(株)復建技術コンサルタント
●授賞理由:本業績は、平成30年北海道胆振東部地震で被災した地区を対象とし、被災メカニズムの調査・推定と対策復旧工事等に係る設計・施工からなる一連の市街地復旧に関する取組みである。産官学が一体となり、最新の地盤工学の知見・情報等を駆使し、谷埋め盛土部の地盤沈下や土砂流出のメカニズム同定、地盤内部の潜在的リスクの可視化、復旧・対策工事の設計・施工に取り組み、早期の市街地復旧に繋がった。地盤工学や地盤防災に関する技術や知見が総合的に活用されたこの成果は、今後全国で起こり得る地盤災害において、早期の復旧・復興を目指す際に大いに参考になる事例であり、社会に貢献することが期待される。以上より、技術業績賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞

地下水循環を利用して薬剤を供給する地下水汚染の微生物浄化技術

篠原 智志(鹿島建設(株))
伊藤 圭二郎(鹿島建設(株))
河合 達司(鹿島建設(株))
上島 裕(鹿島建設(株))
●授賞理由:本業績は、少ない井戸本数で効率的な地盤の浄化が可能となる技術を開発したものである。開発された技術は、吸引した地下水に薬剤を添加、吐出して地盤を浄化するものである。隣り合う井戸でその逆の運転を行い、井戸間の地下水を人工的に循環させることで、必要な井戸本数の削減を可能としている。薬剤を吐出するのみであった従来技術に対して、吸引と吐出を行う本技術には高い独創性が認められる。また、井戸本数の削減に加え、タンク施設の縮小などにより20%以上のコスト削減を可能としており、実用的な観点からも高く評価される。さらに、様々な地下水浄化工法の効率化に応用できる可能性を有している。以上より、技術開発賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞 地盤の均質な加温・注入制御を可能とするVOCs汚染土壌の原位置加温式高速バイオ浄化システムの開発 (株)竹中工務店
(株)竹中土木
国立大学法人横浜国立大学
国立大学法人岡山大学
●授賞理由:本業績は、地盤温度の制御を現場で可能とし、その効果として微生物の活性を高め、揮発性有機化合物の原位置処理を効率的に実施できるというバイオレメディエーション技術の開発である。特に、①微生物による分解反応に最適な25~30℃に地盤温度を広域に制御できること、②浄化剤中に蛍光トレーサーを用いて可視化し、地盤内における浄化剤濃度の挙動を把握したこと、③加温促進効果を考慮した解析コードと観測地を用いた逆解析により、地盤の不均質性を考慮して浄化を精度よく完了できるという3点が評価された。また、比較的安価でエネルギーロスが小さい浄化技術という点とCO2排出も少ないという点は、現在世界的に強く推進されているカーボンニュートラルの方針とも合致している。以上より、技術開発賞としてふさわしいと認められた。
技術開発賞 ICTによる切羽判定システム”JudGeo”の開発 戸邉 勇人(鹿島建設(株)技術研究所)
宮嶋 保幸(鹿島建設(株)技術研究所)
福島 大介(鹿島建設(株)技術研究所)
山下 慧(鹿島建設(株)技術研究所)
升元 一彦(鹿島建設(株)技術研究所)
●授賞理由:本業績は、これまで定性的で主観的な目視観察や、長時間の解析を要する測量などに依存していたトンネル切羽の判定を、独自に開発された画像解析技術を適用することにより、定量的かつ短時間で可能としたものである。特に、スマートデバイスで撮影した画像を利用して切羽判定を自動化できた点と、客観的な判定基準による運用上の利点から、本技術の優位性が評価された。また、切羽の風化度、割れ目間隔、割れ目状態を画像やテキストデータとして収集・蓄積できる点は、ビッグデータ化による高度なデータ解析の実施が可能となり、将来のICT施工への活用が期待できる技術開発であると判定された。以上より、技術開発賞にふさわしいと認められた。

 

【研究・論文賞部門】

賞の名称 受賞業績名 受賞者

論文賞

(和文部門)

堆積軟岩の無支保トンネル掘削に伴う地盤変位計測と三次元シミュレーション 並川 賢治(首都高速道路(株))
松本 正士((株)NOM)
古関 潤一(東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻)
●授賞理由:本論文は、深度45mの堆積軟岩層に無支保で掘削したトンネルに対して、掘削時の地盤変形を高精度に計測し、原位置ブロックサンプリング試料による精密な土質試験と複数の地盤調査結果を適用した三次元FEMにより掘削過程のシミュレーションを試みたものである。あらかじめ綿密な計画で配置した計測器により、6ヶ月の長期にわたりトンネル掘削における地山の応答変形を計測した大変貴重なデータを提示している。さらに、想定し得る複数の地盤パラメータを設定して計測値との整合性が高い解析条件を明らかにしたことは、実務での応用が期待される成果として高く評価される。以上より、論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(和文部門)

地山補強材を用いた側壁との一体化による鉄道橋台の耐震工法に関する実験的検討 山田 孝弘(ジェイアール西日本コンサルタンツ(株)土木設計本部)
佐名川 太亮((公財)鉄道総合技術研究所構造物技術研究部)
中島 卓哉(西日本旅客鉄道(株))
笠原 康平((公財)鉄道総合技術研究所構造物技術研究部)
西岡 英俊(中央大学理工学部都市環境学科)
●授賞理由:本論文は、橋台背面を地山補強材により切土擁壁化し、橋台と側壁を一体化する新たな耐震工法を提案したものであり、その抵抗メカニズムと耐震効果について静的慣性力を負荷する傾斜実験と模型振動実験により検証している。提案された工法は、L2地震動に対して一体化による効果により、橋台の残留水平変位や背面盛土の沈下を低減できることを明らかにしており、このような特徴は地震後の早期復旧を可能にする重要な構造的優位性である。また、営業運行をしながら背面側から施工が可能なことから、作業効率の向上によるコスト縮減と施工時のリスク軽減に有効な工法であると評価できる。以上より、論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

Development of geosynthetic-reinforced soil embankment resistant to severe earthquakes and prolonged overflows due to tsunamis 渡邉 健治(東京大学大学院)
中島 進((公財)鉄道総合技術研究所)
藤井 公博(ジェイアール西日本コンサルタンツ(株)土木設計本部)
松浦 光佑((株)大林組)
工藤 敦弘(JR東日本コンサルタンツ(株))
野中 隆博(東急建設(株))
青柳 悠大(東京理科大学(現:土木研究所))
●授賞理由:本論文は、ジオテキスタイルを用いた地震・津波に対して粘り強く抵抗する盛土補強構造を開発したものである。本論文では大規模地震動および長時間の津波越流を再現した実験装置を独自に開発し、地震動とそれに続く津波による盛土・堤防の被災メカニズムを明らかにし、ジオテキスタイル補強土、のり面保護、地盤改良を併用することで、耐震性・耐津波性が飛躍的に向上することを示している。また、実験で確認された効果を考慮した性能照査型の設計法を提案している。本論文は地震・津波・浸食に対するジオテキスタイル補強土工法の新たな利用を切り拓いた独創性の高い成果といえる。以上より、論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。

論文賞

(英文部門)

A model for freeze-thaw-induced plastic volume changes in saturated clays 西村 聡(北海道大学大学院工学研究院)
●授賞理由:本論文は、細粒土に凍結・融解時に起こる不可逆体積変化を、ミクロ~メソスケールでの熱・水理・力学平衡の観点から説明するモデルを提案したものである。このモデルは、先行研究のアプローチとは一線を画し、凍結時に生じた間隙水ポテンシャルの不均衡に着目して、凍結・融解過程における体積変化速度を理論化した独創的な取り組みの成果である。このモデルにより、寒冷地の路面不同沈下や斜面不安定化の数値解析が可能となり、入力パラメータも簡易な実験から取得できる実用性がある。本論文は凍土と非凍土の力学的性質のシームレス化を成し遂げ、土質力学体系の拡張に貢献した成果といえる。以上より、論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 Rockfall impacts on sand cushions with different soil mechanical characteristics using discrete element method
内藤 直人(豊橋技術科学大学建築・都市システム学系)
●授賞理由:本論文は、落石防護施設の衝撃緩衝材として使用される土の緩衝性能発揮メカニズムやその定量評価手法について論じたものである。個別要素法(DEM)プログラムを用いた数値解析により、1)解析パラメータの物理的意味付けが明確な衝撃緩衝材砂のDEMモデリング手法の構築と、2)衝撃力伝達時に低密度化を伴う衝撃緩衝材砂の変形メカニズムに関する知見の獲得、という成果を得た。独創的な主題に対して地道にデータを積み上げて信頼性のある知見を得ており、地盤工学のみならず構造工学等関連分野を含めた学術の進展への貢献が期待できる。以上より、研究奨励賞としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 Investigation of soil deformation characteristics during pullout of a ribbed reinforcement using X-ray micro CT 木戸 隆之祐(京都大学大学院工学研究科)
●授賞理由:本論文は、帯鋼補強土壁に用いられる補強材の引抜き抵抗メカニズムについて、X線マイクロCTと補強材引抜き試験を併用した実験により検討したものである。リブ付き補強材引抜き中の地盤変形挙動と引抜き抵抗力との関係、特にリブの傾斜角と高さが引抜き抵抗力に与える影響を明らかにするために、新開発した等方拘束力を載荷可能なX線CT用三軸引抜き装置を用い、従来の手法では知り得なかった補強材引抜き中の地盤の変形挙動の可視化に成功し、引抜き抵抗メカニズムを明らかにした。この成果は今後の設計の合理化や新技術の開発に繋がる可能性があり学術的貢献度が高い。以上より、研究奨励賞としてふさわしいと認められた。
研究奨励賞 Investigation of post-liquefaction behavior of sand by large strain torsional shear tests

Muhammad Umar(National University of Computer and Emerging Sciences、 Pakistan)

●授賞理由:本業績は、中型中空ねじり試験装置を駆使して、液状化時・ポスト液状化時に出現するせん断ひずみ数十%レベルの地盤材料挙動を精緻に観測することで、地震時の液状化に伴う砂の大変形挙動の解明に取り組み、液状化被害の予測や液状化地盤の対策設計に活用する取り組みである。得られた成果として、地震時に斜面で生じ得る砂地盤の破壊メカニズムの新たな予測手法、また地震動による初期のせん断ひずみの蓄積がせん断強度に及ぼす影響に関する知見として報告されている。これらは土構造物の地盤耐震設計の合理化、および液状化防災分野の高度化への貢献が期待できる。以上より、研究奨励賞としてふさわしいと認められた。