令和6年度地盤工学会賞受賞者が、令和7年3月17日の理事会において決定いたしました。なお、6月10日の第67回通常総会で学会賞の表彰をいたします。
◆令和6年度地盤工学会賞受賞者の決定◆(PDF 313KB)
(注:受賞者の所属は応募当時,掲載は応募順)
【技術賞部門】
賞の名称 | 受賞業績名 | 受賞者 |
技術業績賞 | 大規模な自然災害を考慮した防潮堤の設置(女川原子力発電所 防潮堤かさ上げ工事)緊急治水対策工事におけるICT施工技術を駆使した一気通貫な合理化施工(小田川付替え南山掘削他工事) | 東北電力株式会社 鹿島建設株式会社 |
●授賞理由:本業績は,原子力発電所の防潮堤かさ上げ工事に関して,新規制基準に準拠した設計と短期間かつ高い精度での施工に取り組んだものである。設計では,2011年東北地方太平洋沖地震以降に得られた最新の知見をもとに設定された強い地震動と高い津波に対して機能を損なわないよう解析や試験を実施し,地盤耐震設計の信頼性向上に貢献した。施工では,厳しい条件を克服するために高圧噴射攪拌工法の合理化や大口径鋼管杭の架台構造などの工夫を実行して工期短縮と施工精度向上を実現した。これらの業績は,原子力発電所の安全と地域の安定電源の確保に大いに寄与するものと考えられる。以上より,技術業績賞としてふさわしいと認められた。 | ||
技術業績賞 | 受入土量の変更に対応した大規模土砂処分場のフレキシブルな埋立技術の開発 | 国土交通省 九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所 一般財団法人沿岸技術研究センター 株式会社日建設計 |
●授賞理由:本業績は,新門司港沖土砂処分場(3工区)を対象として受入れ容量を増大させるためのいくつかの課題について検討・評価したものである。容量拡大のためにPVDを用いた圧密促進を採用し,観測結果に基づき受入れ土量の変化にフレキシブルに対応して埋立を行った。特に,地盤調査と動態観測結果による圧密パラメーターの同定や解析地盤モデルの設定を行うことにより沈下予測精度を高めた。また,傾斜堆積する泥面形状を予測する手法を開発し土砂投入計画に反映させた。本手法は今後の大規模な浚渫土砂処分場の運営に対して貴重な知見を提供するものである。以上より,技術業績賞としてふさわしいと認められた。 | ||
技術開発賞 | 頭部固定式二重土留め工法の開発AI画像粒度モニタリングシステムを用いたCSG材表面水量管理システムの開発 | 永谷 英基(鹿島建設(株) 技術研究所) 井上 直史(鹿島建設(株) 土木設計本部地盤基礎設計部) 坂梨 利男(鹿島建設(株) 土木技術部) 渡邉 洋介(鹿島建設(株) 土木設計本部地盤基礎設計部) 重松 慶樹(鹿島建設(株) 土木設計本部地盤基礎設計部) 那須 郁香(鹿島建設(株) 東京土木支店) 西岡 英俊(中央大学) 菊池 喜昭(一般財団法人沿岸技術研究センター) |
●授賞理由:本業績は,鋼矢板を二重に設置し,頭部を剛結することでラーメン構造化して高い剛性を得る土留め工法を提案し,地盤工学的アプローチに基づき,技術成立性の確認,性能評価を行い,実用化に至るまでの技術開発の経緯をまとめている。本工法は,狭隘な用地でも施工可能で,支保工の省略・縮減による作業スペースの確保により高い施工性と安全性を実現している。また,汎用材料と汎用機械の使用,多様な地盤への適用が可能なことから高い汎用性を有し,地中残置物や建設汚泥の発生を抑制するなど環境負荷の低減にも貢献した工法である。ゆえに,社会的ニーズの高い技術開発として高く評価できるものである。以上より,技術開発賞としてふさわしいと認められた。 |
【研究・論文賞部門】
賞の名称 | 受賞業績名 | 受賞者 |
論文賞 (和文部門) |
固相内拡散を考慮した固液間物質移動モデルに関する実験的検討 | 奈佐原 寅太郎(元京都大学大学院 工学研究科修士課程) 肴倉 宏史(国立環境研究所 資源循環領域) 加藤 智大(京都大学大学院 地球環境学堂) 高井 敦史(京都大学大学院 地球環境学堂) 勝見 武(京都大学大学院 地球環境学堂) |
●授賞理由:本論文は,掘削工事で発生する低濃度汚染土の有効利用を目的に,地盤内での物質移動を予測するDF—Kdモデルの妥当性を実験的に検討したものである。パラメーターKdおよびDFを実験的に取得する手法を確立し,収着・溶出試験の結果をモデルによる計算値と比較した結果,DF—Kdモデルが化学反応の長期持続性を予測しうること,吸着・脱着の不可逆性を説明できることを示した。本研究は,土壌中の有害物質の固定機能を定量化することで地盤汚染対策への応用が期待されるだけでなく,カーボンニュートラルを視野に入れた建設副産物の活用にも貢献し,地盤工学・環境工学分野に広く示唆を与えるものである。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (和文部門) |
SCP工法による締固め改良地盤の微視構造変化に関するX線CT模型実験 |
江副 哲((株)不動テトラ 大阪支店) |
●授賞理由:本論文は,我が国における代表的な液状化対策であるサンドコンパクションパイル(SCP)工法の改良効果の中で設計において現状考慮されてない“微視構造“に着目し,この”微視構造“の変化を非破壊かつ3次元で測定可能なX線CT法とSCPの施工プロセスを再現可能な模型実験装置の開発に取り組んでいる。さらに,模型実験により可視化したSCP施工に伴う”微視構造“の変化を画像処理により定量的に評価可能な手法を提案するとともに,開発装置が実施工におけるSCP工法の施工サイクルをおおむね再現できることを明らかにしている。このようにSCP工法の施工,設計の高度化を図るうえで有益となる知見がまとめられており,本論文は論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (和文部門) |
風化に対する切土法面の管理優先度の決定方法 | 永田 政司(中日本高速道路(株) 東京支社) 村上 豊和(西日本高速道路(株) 関西支社) 佐藤 尚弘(明治コンサルタント(株) 技術本部) 菊本 統(横浜国立大学) |
●授賞理由:本論文は,全国の高速道路の切土法面96箇所を対象として供用後40~50年にわたって実施されてきた弾性波探査等による風化の追跡調査のデータを取りまとめるとともに,風化程度の評価指標として「法面安定度」を提案し,その有効性を検証したものである。弾性波探査をもとにして切土法面における風化帯層厚や斜面安定性を評価するための簡便かつ信頼性の高い手法を提案しており,地盤工学における学術的貢献度が顕著である。さらに,実際に崩壊や崩落の前兆となる変状が生じた法面に対する事例検証を通じて,提案手法の適用範囲や実装上の留意事項についても詳細に論じており,切土法面の合理的な管理保全に資する工学的に有益な知見を提供している。以上より,論文賞(和文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (英文部門) |
Linking inherent anisotropy with liquefaction phenomena of granular materials by means of DEM analysis | 大坪 正英(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所) Sanjei Chitravel(ブリティッシュコロンビア大学) 桑野 玲子(東京大学 生産技術研究所) Kevin J. Hanley(エディンバラ大学) 京川 裕之(名古屋工業大学大学院) 古関 潤一(ライト工業(株)) |
●授賞理由:本論文は,気中落下法や湿潤突固め法などの供試体作製法に起因する初期異方性の特徴を個別要素法を用いて表現し,三軸圧縮・伸張試験や繰返し三軸試験を模擬した数値解析を実施することで,初期異方性および誘導異方性の程度に着目して静的せん断強度および液状化強度を詳細に分析している。本研究成果は,初期異方性を有する自然地盤の液状化強度の高度な解釈と強度発現メカニズム解明に大きく貢献し,さらに実務における液状化判定の高度化にも貢献し得ると期待でき,学術的にも実務的にも価値のある内容と評価できる。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
論文賞 (英文部門) |
Centrifuge modeling of scale effect on hydraulic gradient of backward erosion piping in uniform aquifer under river levees | 岡村 未対(愛媛大学大学院) 露口 祐輔((株)四電技術コンサルタント) 泉 典洋(北海道大学工学研究院) 前田 健一(名古屋工業大学) |
●授賞理由:本論文は,洪水時に河川堤防に生じるパイピング破壊について,特にその発生・進展時の水位とメカニズム,および堤体寸法の影響に関する研究成果を述べたものである。堤防の縮尺模型に遠心加速度を作用させることにより,パイプ内流れの状態を層流から乱流に変化させる一方,特に透水係数と耐浸食性の土の力学特性は一定とした実験が実施できることを明らかにし,パイピング現象に及ぼす砂の粒径とパイプ内流れの状態のそれぞれの影響を独立に調べている。地盤工学と水工学の境界領域にある複雑なパイピング現象の記述と相似則の解明に必要な無次元数を整理し,スケール効果解明の道筋が明確に示されており,地盤工学に関する学術の進展に顕著な貢献をした。以上より,論文賞(英文部門)としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 |
Multi-physics numerical analyses for predicting the alterations in permeability and reactive transport behavior within single rock fractures depending on temperature, stress, and fluid pH conditions | 緒方 奨(大阪大学大学院工学研究科) |
●授賞理由:本論文は,高レベル放射性廃棄物の地層処分における核種閉じ込め性能を評価するため,亀裂性岩盤中の透水・物質輸送特性の経時変化を予測可能な新たな解析モデルを提案したものである。従来,温度・拘束圧・pH 条件が複合する環境下での地化学反応が透水特性に及ぼす影響を再現できる数値解析モデルは確立されていなかったが,本論文では,有限要素法と熱力学データベースを活用し,圧力溶解などの影響を考慮したマルチフィジックス反応輸送解析モデルを提案している。さらに,透水試験結果との比較によりモデルの妥当性を検証し,その汎用性と応用可能性を示している。これらの成果は,地盤工学・岩盤工学分野への貢献と今後の発展性の観点から,本業績は研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 | Suffusion in densely compacted Satozuka pumice sand and its impact on static loading undrained shear strength and dilation behaviour | Rupali Sarmah((株)技研製作所 高知支社) |
●授賞理由:本論文は,北海道胆振東部地震で液状化により甚大な被害を受けた造成盛土の盛土材である火山灰質砂を対象として,締固め条件の違い,内部侵食の有無を考慮して一連の三軸試験を実施し,これらの因子がせん断特性に与える影響を詳細に検討している。その結果,ダイレイタンシー特性及び非排水せん断強さと締固め条件,骨格微視構造,内部侵食の関係性について体系的に説明にしている。また,密に締め固めた火山灰質砂の盛土は,内部侵食を受けても強度低下がほとんど生じないことを明らかにしており,火山灰台地が多い地域における盛土造成の実務に役立つ知見が得られている。以上より,研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 | ||
研究奨励賞 | Sheet-coating mitigation for membrane penetration in undrained triaxial tests and evaluation of comprehensive liquefaction resistance of crushed gravel | 笹岡 里衣(鹿島建設(株) 土木設計本部) |
●授賞理由:本業績は,繰返し非排水三軸試験において重要なメンブレンペネトレーション(MP)の影響を除去するための新たな実用的な方法を考案し,粗粒土の非排水せん断挙動を系統的な要素試験により明らかにしたものである。砕石などの粗粒土を用いて造成した人工地盤は,従来の液状化判定基準に該当せず,また,繰返し非排水三軸試験方法の基準化では粗粒土は対象とされていなかった。本研究で得られた粗粒土の非排水三軸試験でのMP 除去法,粗粒土の非排水せん断強度特性の知見は,粗粒土の非排水せん断強度の信頼度向上,粗粒土から成る人工地盤の合理的な設計や耐震性評価に貢献できると考えられ,本業績は研究奨励賞としてふさわしいと認められた。 |