地盤材料試験結果の精度の分析と表記方法についての研究委員会

1.研究委員会発足の経緯

(1)試験の精度に関わる最近の動向
平成16年のJIS 法の改正において、JIS マーク製品や輸出入品の品質確認には第三者機関により認定された「試験所」が品質を試験して、試験結果の妥当性を保証することになり、平成21年より対象製品に適用されている。この認定された試験所は技術的要件として試験結果の精度を表記する必要があり、ISO/IEC 17025及びJIS Q 17025 においては「不確かさ」として表記することにされている。さらに、試験技術・技能を高めるために、他機関との技術的比較を行う「技能試験」に参加することが義務付けられている。
地盤材料はJIS 製品や輸出入品とは違うので上記の方法を直接適用されることはない。しかし、地盤に関わる構造物の設計・施工・維持管理において地盤材料の試験結果の品質が重大な影響を与えるので、地盤材料試験に携わる試験機関ごとに試験結果の精度を「不確かさ」として表記すること及び「技能試験」に参加することは、安全・安心な構造物を建設する上で欠かせないことである。
平成17年4月に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」では、3つの基本理念の一つとして「調査及び設計の品質確保」を掲げており、その一翼を担うものが試験結果の品質つまり精度である。
平成21年6月には「地盤構造物の安全性とリスク」に関する第2回国際シンポジウムがIS-Gifu2009として開催され、参加者約100人、51編の論文が発表され、地盤工学におけるリスク評価と管理に関して議論された。また、昨年の第44回地盤工学研究発表会では、調査・分類の総括セッション「バラツキを考える」において、5編の論文が発表され活発な討論がなされた。

(2)地盤材料試験における精度への関心と委員会の役割
地盤材料試験結果が信頼できるものであるか否かは、地盤工学に関わる各種構造物の設計・施工および維持管理において極めて重要な問題である。また、最近では地盤工学の分野でも性能設計・信頼性設計の概念が導入されているが、試験結果を設計値として採用する際に、地盤の不均一性については検討されているものの、試験データ自体に包含されている測定値のばらつきについての検討は十分ではない。
構造物の品質を確保しながら経済的な設計・施工を行うためには、試験機関が信頼性のある地盤材料試験結果を提供・公表する必要がある。信頼性のある地盤材料試験結果とは、前述の改訂JIS による試験所が備えるべき次の二つの要件を満たすことである。

①試験結果について信頼の幅(不確かさ)を表記すること

②試験結果を提供する試験機関の能力が一定の基準で評価されていること

すでに、他の多くの工学分野では、各種試験結果の報告書に測定値の不確かさを明示するとともに、試験結果を提供する試験機関に対して技能試験への参加を義務付けている状況にある。そこで、地盤材料試験においても、試験結果の精度の分析と表記方法についての研究が急務であると考え、平成21年度より「地盤材料試験結果の精度の評価方法とその表記方法に関する研究委員会」を立ち上げ、次の二つのWGにおいて活動している。

①不確かさWG:試験結果の品質を定量的に評価する一方法であり、「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項(JIS Q 17025:2005)」における技術的要求事項でもある「不確かさの推定方法」を地盤材料試験方法ごとに確立する。具体的には、WG内での検証実験によりデータの収集・統計的解析を行い、各地盤材料試験の不確かさ要因について定量的に分析・研究する。

②技能試験WG:上記規格における技術的要求事項でもある「技能試験(試験所間比較)」の地盤材料試験への適用について検討する。先ず委員会構成メンバーを中心とする技能試験、次いで全学会員を対象とした技能試験を試行し、収集したデータを統計的に分析・研究し、試験項目ごとの技術的難易性を明らかにすると共に、試験機関の能力向上の方法などについて提案する。

2.委員会名簿

会務 氏名 所属先
委員長 澤 孝平 協同組合関西地盤環境研究センター
幹事長 柴田 東 (株)興和 土質試験センター
不確かさWG WG長 三上 武子 応用地質(株)コアラボ
技能試験WG WG長 中山 義久 協同組合関西地盤環境研究センター
不確かさWG 幹事 真島 淑夫 (株)興和 調査部
技能試験WG 幹事 稲積 真哉 京都大学
技能試験WG 池尻 健 (株)セントラル技研 地盤技術部
不確かさWG 石丸 真 (財)電力中央研究所 地球工学研究所
不確かさWG 磯部 公一 長岡技術科学大学
技能試験WG 伊藤 譲 摂南大学
不確かさWG 大北 耕三 (株)大北耕商事
不確かさWG 小田 和広 大阪大学
不確かさWG 木村 勝 (株)アースプライム
技能試験WG 楠本 奈津子 協同組合関西地盤環境研究センター
技能試験WG 久保井 利達 和歌山工業高等専門学校
不確かさWG 古関 潤一 東京大学
不確かさWG 木幡 行宏 室蘭工業大学
技能試験WG 小堀 慈久 呉工業高等専門学校
不確かさWG 佐川 修 (財)建材試験センター中央試験所
技能試験WG 末次 大輔 佐賀大学
技能試験WG 津田 和宏 (株)ツチケン 島根県東部建設試験センター
不確かさWG 飛田 哲男 京都大学
不確かさWG 中澤 博志 独立行政法人港湾空港技術研究所
技能試験WG 沼倉 桂一 川崎地質(株)ジオラボ関東
不確かさWG 林 泰弘 九州産業大学
技能試験WG 日置 和昭 大阪工業大学
不確かさWG 細野 康代 豊橋技術科学大学 建設工学系
技能試験WG 南 茂樹 石川県土質研究協同組合
技能試験WG 向谷 光彦 香川高等専門学校
技能試験WG 森田 年一 福島工業高等専門学校 建設環境工学科
技能試験WG 山内 昇 北海道土質試験協同組合 技術部
技能試験WG 吉村 優治 岐阜工業高等専門学校
不確かさWG オブザーバー 植松 慶生 (財)日本適合性認定協会
不確かさWG オブザーバー 榎原 研正 (独)産業技術総合研究所
技能試験WG オブザーバー 保坂 守男 (財)日本適合性認定協会
技能試験WG オブザーバー 城野 克広 (独)産業技術総合研究所

3.活動期間

平成21年4月~平成24年3月

4.主な活動内容

(1)全体委員会

第1回全体委員会
日時:平成21年6月25日(木)
13:00~17:00
場所:地盤工学会 会議室 参加者:30名
講演 ①「測定・試験における不確かさ評価」:榎原 研正 氏(オブザーバー)
②「技能試験について」:保阪 守男 氏(オブザーバー)
議事 ①各WG活動計画の説明:各WG長
②活動について全体で意見交換
③各委員の所属WGの発表・確認
④WGごとの打合せ
第2回全体委員会
日時:平成21年12月17日(木)
13:00~17:00
場所:地盤工学会 会議室 参加者:23名
事例報告 ①「北海道の組合での実情」:山内 昇 委員
②「関西の組合での実情」:澤 孝平 委員長
議事 ①各WGの活動報告
②今後の活動についての全体討議
第3回全体委員会
日時 : 平成22年6月30日(水) 13:00~17:00 場所 : 地盤工学会 会議室 参加者 : 22名
話題提供 ①「建築分野における不確かさの推定について~建材試験センターにおける取り組み~」 : 佐川 修 委員
②「計測における不確かさ感度係数について」 : 城野 克広 氏(オブザーバー)
議事 ①不確かさWG活動報告・討議
②技能試験WG活動報告・討議
③DS-9についてのプログラム説明

(2)不確かさWG

WG開催 開催日 出席者数 主な活動・検討内容
第1回 2009.8.20 17 活動方針確認、試験試料について、検討試験項目
2009.8.20~
2009.12.9
文献収集作業
第2回 2009.12.9 14 事例報告、一斉試験のレビュー報告、検討試験項目の決定、
SWGのグループ分け
①最大最少密度試験
②液性限界、塑性限界試験
③一軸圧縮試験
2009.12.9~
2010.5.21
フィッシュボーン図作成(各SWG単位)
第3回
(リーダー会議)
2010.5.21 5 活動のステップとスケジュール
・フィッシュボーン図の完成
・試験の実施
・不確かさの評価
現在 フィッシュボーン図の作成、要因抽出の検討

(3)技能試験WG

WG開催 開催日 出席者数 主な活動・検討内容
第1回 2009.6.25 14 WG所属、予定(案)、均質性確保、実施する試験、材料選択
第2回 2009.8.19 13 均質性確保、実施する試験、材料選択、一斉試験の実施(問題点の抽出)
2009.11.24~
2009.12.7
委員会内一斉試験実施
第3回 2009.12.7 12 一斉試験実施結果速報、
①均質性(確保、材料選択、準備~発送方法)
②試験(実施可能試験、試験手順書)
③アンケート(内容、試験方法の解釈)
のSWGグループ分け
  現在 ①均質性、②試験、③アンケートのサブワーキングが試験項目の検討中。
SWGリーダーから2~3の意見を頂いている。

5.今後のスケジュール(平成22年7月~平成24年3月)

(1)全体委員会:平成22年12月・平成23年6月・12月開催予定

(2)不確かさWG・技能試験WG:年数回開催予定

(3)第45回地盤工学研究発表会のディスカッションセッション:平成22年8月17日

(4)報告会・シンポジウム:平成24年3月開催予定