現場レポート6 金町浄水場送配水ポンプ施設築造工事

1.はじめに

 『学会職員による現場レポート第6弾』、今回は、現在、東京都水道局さんが高度浄水施設の整備を導入した金町浄水場で行われている送配水ポンプ施設の築造現場を見学させていただきました。
金町浄水場はJR金町駅から徒歩10分程度の江戸川沿いにあり、近くに映画「男はつらいよ」の舞台にもなった柴又帝釈天があります。

 金町浄水場は、東京都水道局が初めて高度浄水処理を導入した浄水場であり、平成元年の工事着手から約四半世紀にわたり進めてきた施設整備が平成25年3月に完了したとのことです。
送配水ポンプ施設は、建築面積6,584m2 延べ床面積26,541m2で、長さ114.8m、幅55.6m、高さ40.35m(最大45.15m)の地下4階地上3階のRC造(一部SRC造)です。
この施設は分散している既存のポンプ所機能を集約して効率性を高めた新しい送配水ポンプ所です 。

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送配水ポンプ施設 完成予想図(清水建設工事資料より)

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高度浄水処理の仕組み(東京都水道局HPより)

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高度浄水処理水の給水区域(東京都水道局HPより)

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2.工事の手順

 工事はまず、地下4階部分を造るために約25mの深さまで地盤を掘削します。掘削により周辺の土が崩れたり、地下水位が低下して沈下が起きたりしないよう、掘削する前に、剛性および遮水性の高いソイルセメント地中連続壁工法(SMW工法)で土留め壁(地上から38mの深さまで)を構築します。SMWとは土(Soil)とセメントスラリーを原位置で混合・攪拌(Mixing)し、地中に造成する壁体(Wall)の略称です。
 土留め壁が完成したら、掘削を開始しますが、数m掘削するたびに土留め壁が掘削側に倒れないようにグラウンドアンカーで掘削背面に引っ張ります。この作業を数回繰り返して最終的に約25mの深さまで掘削していきます 。

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土留め構造概要図(清水建設提供)

 掘削が終わったらポンプ施設が入る建物を造るために、鉄筋組立、コンクリート打設を繰り返しながら底版、側壁、床版を順番に造っていきますが、建物を先に造ってしまうと送配水管を据えるのが難しいので、建物を造りながら最大φ2,800mmという大きな鋼管も据えていきます。
 重量の大きな鋼管やバルブを広い範囲に据えていく必要があるので大きなクレーンが必要になります。そこで、掘削範囲の中央部分にクレーンが作業できる構台を作り、大きな100tクレーンにより鋼管やバルブを据えていきます 。

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地下2F本体構造平面図(清水建設提供)

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本体構造断面図(清水建設提供)

 現在は底版コンクリートを造るために、鉄筋の組立、コンクリート打設および送配水管の据え付けを順調に行っています。 

3.見学の内容

 現場見学に先立ち、施工管理を担当している清水建設の古川工事長に工事概要を説明して頂きました。その後ヘルメットをかぶり、現場へ移動していよいよ見学開始です。

 現場に到着し、最初に目につくのは3台の大型クレーンです。約25mの深さの地下に建物を築造する当工事では、材料を上げたり降ろしたりするのに重要な役割を果たします。また、広さ120m×60mの掘削範囲の周囲には、作業員の転落防止のため、肩の高さほどの防護柵が設置されています。

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地上付近の様子

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防護柵の下をのぞきこむ学会職員と広報委員

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 土留め壁は厚さ80cmほどのソイルセメント地中連続壁で、その中には土留め壁の強度を高めるためにH型鋼(600mm×300mm)が60cm間隔で設置されています。江戸川のすぐそばで行われている工事ですが、土留め壁からの漏水は見られませんでした。
 土留めの支保工であるグラウンドアンカーは鉛直方向に9段設置されています。周辺地盤に支保工材(アンカー)を定着させる方法であるため、障害(切梁、中間杭など)が無い状態で設備を築造することができます。 土留めの内部では、送取水ポンプ所の最下部にあたる底版の施工が行われていました。既にコンクリートの打設が完了した部分もありますが、それ以外の部分では鉄筋の組立て作業が行われていました。なお、1回の施工で打設するコンクリート量は約1,700m3で、4台のコンクリートポンプ車を使って打設します 。

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土留め壁、グラウンドアンカーによる掘削状況(清水建設提供)

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 開削部の中央部には掘削深さと同じ約25mの高さの作業構台が架設してあり、この上で材料の移動や揚重作業を行います。

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作業構台上の100tクレーン(清水建設提供)

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鋼管の吊り上げ状況(清水建設提供)

 作業構台上では、仮置きしていた鋼製の配管部品を見ることができました。最大径は2.8m、最も重い部品は38トンもあり、地下に吊り下ろすために吊り上げ能力100トンのクローラクレーンを使います。

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鋼製の配管部品

 作業構台の昇降階段を下りて地下へ移動しました。
 主に、送配水用の配管の設置作業、底版部の鉄筋組立て作業が行われていました。ジャングルジムのように組まれた作業構台の下でも、カラーコーンを真直ぐ並べて作業通路を確保するなど、現場の整理整頓がきちんとされていました 。

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設置された送配水管

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地下の作業構台下で説明を受ける

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4.現場レポート

4.1  M職員
 今回現場を見学させていただいた金町浄水場は、JR金町駅からは柴又街道を帝釈天方面に徒歩で15~20分と少々微妙な距離にあるものの、スマートフォンのルート検索によれば、映画「男はつらいよ」の舞台にもなった京成電鉄金町線の柴又駅からは徒歩約7分と理想的な距離にあります。ところが、柴又駅発着の金町線は極端に列車の本数が少なく「待ち時間を考えると葛飾区民はみんなJR金町駅から歩きますよ」との地元在住のN職員の天使(悪魔?)の一声により、あえなく柴又駅プランは却下され、さらに追い打ちをかけるような暑さの中(東京は34.1℃)を打ちひしがれ汗みどろになりながら浄水場へと向かいました。

 現場に到着すると、エアコンの効いた事務所の会議室で、ご用意いただいたペットボトルの冷たいミネラルウォーターで一息つきながら工事の概要についてご説明をいただきました。
 実際に現場の中をご案内いただき強く感じたことは、土留めのアースアンカーの大きさや稼働中の浄水場の他施設に影響を与えることなく工事を進めなくてはならない難しさ、地下の工事は地上での工事よりも自然を相手にしなければならないためより難しい面がある等、残念ながら専門家ではないため完全には理解できませんでしたが地盤工学の技術に直に触れさせていただくとともに、わかりやすくご説明いただきとても勉強になりました。

 また、危機管理の面から現場の整理整頓には最も気を使っているという古川工事長のお言葉をお聞きし、整理整頓の重要性を再認識するとともに学会事務局の様子を想い浮かべつつ、現場をあとにしました。
 今回、ご多忙の中ご案内くださり、とても丁寧に工事内容等のご説明をいただきました、清水建設の古川工事長をはじめ、見学者用のヘルメット等の準備をいただきました企業体職員の皆様ほかすべての関係者に感謝申し上げます。有難うございました。

4.2  N職員
 今回は地元の金町浄水場の現場とのことで、はりきって見学に参加させていただきました。
[壮大な地下空間]
 桟橋から見下ろした現場は、これまでに見たこともない地下の大空間で、RCの壁の厚さは2.5mもあり、現場のスケールの大きさに驚きました。土留めのご説明などを伺い、ここまで深くて大きい地下の建設はなかなか思うように進めないものだということを知りました。
[送水管の移動]
 以前、夜間の柴又街道で、反対車線にかかってしまうほどの大型トレーラーが前後に誘導をつけて、何かの行列のようにゆっくりと走行しているのを見たことがありました。古川工事長からのお話で、直径2.6mの鋼管を運搬していたということがわかりました。大きな鋼管を見ながらその時の光景を思いだし、工事の規模の大きさをつくづく感じました。
[地下水の量]
 地下水をポンプで汲み上げているところを見せていただきましたが、その量なんと毎分1.5トンとのこと!勢いよく流れる地下水をみて自然の力強さを感じました。
[ヘルメット]
 現場では、ほとんどの作業員の方が白いヘルメットを被っていますが、なんと鮮やかなピンク色のヘルメットを被っている作業員の方をところどころで発見!好きな色が選べるのかな(まさか!)などと、取材中ずっと気になっていました。このピンク色のヘルメットは玉掛け作業員が被ることになっていて、この色を目印にその側を歩く時は注意をするとの決まりがあるとのことです。安全に対しての工夫に感心いたしました。 また、地上の桟橋から地下4階までの階段を降りていた時のこと、最後の段を降りた瞬間、頭上の階段に頭をゴツン!ヘルメット着用の重要性を、身を持って体験しました。
[安全管理]
 ご案内くださった古川工事長は、通路脇のカラーコーンをまっすぐに直しながら進んでいらっしゃいました。このカラーコーンは資材や工具の置き場の明示と、通路の安全を確保するために配置されているとのことで、乱れて置くことのないよう注意をされるそうです。カラーコーンの一糸乱れぬ配置を徹底される古川工事長に、安全対策の厳しさと強い責任感を感じずにはいられませんでした。
[さいごに]
 大きな鋼管などに囲まれた現場にいると、地下の異空間に入り込んで “こびと”になってしまったような気分でした。深く掘られた地下の現場で様々なご事情を伺い、地盤に手を加えるむずかしさを知ることができました。 ご多忙のなか、丁寧にご案内くださった工事長をはじめ、関係者の方々に心よりお礼申し上げます。

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5.おわりに

この工事は、供用中の施設に隣接していることから、その施設の稼働に影響しないよう注意を払いながら施工が行われています。また安全面では、重量物の揚重作業が頻繁に行われることから、玉掛け作業員にピンク色のひときわ目立つヘルメットを着用させて注意を払わせるなどの工夫をしています。全般的に安全通路がきちんと整備され、材料も整理して仮置きされており、そういったことも安全で良い仕事につながっていると感じました。

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現場事務所にて撮影

 見学当日も今年の夏を象徴するようなとても暑い日で汗まみれになりながらの取材でしたが、なかなか見ることのできない大規模な開削工事を見学することができ、参加した学会職員も大満足でした。
 最後に、現場見学を許可して頂いた東京都水道局、現場を案内してくださった清水建設の古川工事長をはじめ,今回の現場見学に協力してくださったすべての工事関係者の方々に厚く御礼申し上げます。 金町浄水場送配水ポンプ所が無事に完成することを願っております。

(文責:㈱大林組 照井太一,中央開発㈱ 今村雅弘)