規約類・倫理綱領

定款・規則等

地盤工学会倫理綱領

地盤工学会は、人々のくらしと自然環境に直接関わる地盤工学の調査・研究とその成果の実践を通じて、学術文化の発展とともに、人類のより安全で豊かな社会の実現に寄与することを目的とする。
会員は、上記目的に沿って、誠実かつ真摯に地盤工学の学術的研究と技術の発展に努め、その実践において良識のもとに品位のある行動をする。

  1. 【社会に対する貢献】:安全で豊かな社会の持続的発展に寄与するために、地盤工学の専門知識と技術を積極的かつ適切に活用する。
  2. 【自然に対する態度】:自然に対して謙虚に接し、その適正な活用と地球環境の保全に努める。
  3. 【責任ある行動】:他者の業績と知的成果を尊重し、法を遵守して自己責任のもとに良心的に行動する。基本的人権を尊重し、個人を公平に扱う。
  4. 【自己研鑽と人材育成】:地盤工学の専門知識と技術を継続的に研鑚するとともに、知識、経験を生かして次世代を支える人材の育成に努める。
  5. 【会員交流と知見の公表】:会員相互で学術的および技術的知見を共有するとともに、国内外における交流を促進する。その知見を一般の人々に分かりやすく伝える。

地盤工学会倫理綱領について

1.はじめに
倫理とは「①人倫のみち、実際道徳の規範となる原理。道徳。②倫理学の略(広辞苑)」である。多くの学会は、その目的に即して倫理綱領”Code of ethics”を持っている。地盤工学会も倫理綱領を持つ必要があると判断した。
このようなものは、誰も読まないし何の役にも立たない、という意見もあった。しかし、会員の皆様は、意識的・無意識的に自己の行動をそれぞれの持つ倫理に照らして律しているはずである。土木、建築、農学、応用地質工学などの地盤工学に関係する技術者・研究者・教育者に対して、地盤工学会の会員としての共通な倫理を明示することは、学会の目的を社会に対して明示するとともに、会員各自の倫理の自主的な構築にも役に立つと判断した。
会員個人の良心と自主性を尊重して、簡素な倫理綱領にした。これは、地盤工学会が任意加入団体であることから、細かく規定的な内容を含むと、ある特定の狭い見解を押しつける恐れがあるからである。

2.倫理綱領の説明
2.1 前 文
地盤工学会の目的は、「人々のくらしと自然環境に直接関わる地盤工学の調査・研究とその成果の実践を通じて、学術文化の発展とともに、人類のより安全で豊かな社会の実現に寄与する」とした。
また、「学会の倫理綱領」よりも「会員の倫理綱領」に重点を置いた。本来それぞれの組織は倫理綱領を持つべきであり、組織の倫理綱領と個人の倫理は本来整合するはずである。しかし、倫理綱領を持たない組織が多く、また組織の論理と個人の技術者としての倫理の間に深刻な不整合が生じることがある。本綱領では、会員個人の倫理綱領の一般原則として、「会員は、上記目的に沿って、誠実かつ真摯に地盤工学の学術的研究と技術の発展に努め、その実践において良識のもとに品位のある行動をする。」と述べて、会員誰もが納得するであろう個人の行動基準を述べることにした。

2.2 行動基準
(1)[社会に対する貢献] これは、多くの異なる組織に属している会員が共通して持っている「地盤工学の技術者・研究者・教育者としての究極の目的」を要約して、「安全で豊かな社会の持続的発展に寄与するために、地盤工学の専門知識と技術を積極的かつ適切に活用する」とした。
(2)[自然に対する態度] 「自然に対して謙虚に接し、その適正な活用と地球環境の保全に努める」ことは、自然環境を仕事場とする地盤工学の技術者にとっても、自然環境の一つである地盤環境の法則性の研究者・教育者にとっても、現実にはそう簡単ではない。しかし、この視点を失うと、基本的な倫理の一つが失われると思う。
(3)[責任ある行動] 「他者の業績と知的成果を尊重する」ことは、良い意味での個人主義の発達が遅れた我が国では、案外守られていないようである。個人・組織が開発した生産技術を保護する制度としては特許制度があり、研究成果の先達性を示す制度として論文集がある。しかしその前に、組織の中で(例えば、教授と学生の間で、上司と部下の間で)、また異なる組織の間で(例えば、発注側と受注側の間で)、個人・組織の貢献の正当な評価の有無が時として深刻な問題となる。
「法を遵守する」ことは当然としても、「自己責任のもとに良心的に行動する」となると案外難しいはずである。技術的判断を組織や委員会の判断として、個人責任を避けることも多いかもしれない。また、自己の属する組織や部下・同僚に対する不等な利益誘導、先輩の圧力・昇進問題との絡み合いなどで技術者として意にそぐわない行動をとることもあると思う。「基本的人権を尊重し、個人を公平に扱う」ことも当然かもしれないが、地盤工学の技術者・研究者・教育者の間でも、「地域、人種、宗教、性、年齢、組織での地位」を理由とした暗黙の差別は多いかもしれない。特許権申請時の発明者の記載や論文の筆頭著者の問題を一つとっても、実際には単純ではないはずである。
(4)[自己研鑽と人材育成]と(5)[会員交流と知見の公表] これらは、地盤工学会(広くは学会)の本来の目的に関係する。「学会の内向きな一般的目的」としては、次の四つが重要と思う。

専門技術者・研究者・教育者の正当な利益団体となる。政治的経済的な利益団体ではなく、専門技術者・研究者・教育者としての職能の正当な社会的認知を得るための団体、という意味である。そのために、当該専門技術と学問体系の必要性と重要性の啓蒙活動を行う必要がある。

専門技術・知識を、会員相互で共有するとともに体系化と認知を行う。「土と基礎」をはじめとする地盤工学会の様々な定期出版物、地盤工学ハンドブック等の不定期出版物、技術賞・論文賞などの実施、試験法・調査法・設計法の基準化などが相当する。

専門技術・学術の情報を交換し取得するとともに、継続的に研鑚する。年次学術講演会、各種研究委員会活動がそれにあたる。技術者・研究者・教育者の倶楽部的活動(同僚・先達・後輩と知り合うこと)も、相当する。

知識、経験を生かして次世代を支える技術者・研究者・教育者の人材を育成する。
上記②③④が、「地盤工学の専門知識と技術を継続的に研鑚するとともに、知識、経験を生かして次世代を支える人材の育成に努める。」、「会員相互で学術的および技術的知見を共有するとともに、国内外における交流を促進する。その知見を一般の人々に分かりやすく伝える。」という文章に込められている。

これらは、工学系学会の本来の目的の一つである。このことは、大学に工学部が整備された20世紀初頭よりもはるか前から技術者の学会が成立していた英国の工学の学会(少なくとも土木学会)では明白である。これに対して、我が国の工学の学会は、帝国大学の工学部が成立した後に、その卒業生により同窓会的に発足したようである。このため、この役割が明確に認識されていなかったと思われる。上記の歴史的な相違を反映して、欧米の建設工学系の学会においては、民間のコンサルタントなどの方が会長はじめ主要な役職についている場合が多いが、我が国では役職を大学人(あるいは官庁の方)が占める場合が多い。
技術者・研究者は、学会活動を通じて各種の技術的・学問的な情報を獲得するだけではなく、自ら情報を発信してそれぞれの組織・個人の存在意義を示し、またそれぞれの技術者集団(地盤工学会にとっては地盤工学の技術者・研究者・教育者)のみならず、社会に貢献できると信じている。それが行われない閉鎖的な社会の状態では、全ての技術と学問は秘伝となり腐朽していく。情報の公開が近代社会の前提であり、その為には、学会の存在が必須であることは自明であると思われる。
また、地盤工学会は、国際土質基礎工学会(現在の国際地盤工学会)の日本支部として発足した経緯があり、従来から国際的な活動は重視してきた。しかし、国内で「地盤工学の交流を促進し、その知見を一般の人々に分かりやすく伝える」という点は、十分であったであろうか? 学会名を「土質工学会」から「地盤工学会」へと分かりやすい名称に変えたが、「地盤工学」は依然としてその重要性に比して一般の市民の方にとって理解しやすい技術・学問体系ではない。従って、学会としても学会員個人としても特別の努力が必要である。

地盤工学会 前 企画部長 龍岡 文夫

『君ならどうする?-建設技術者のための倫理問題事例集-』

A5判  62頁  H15.6発行
会員特価 525円(本体 500円) 定価 735円(本体 700円) 送料 400円

2003 年2月1日、スペースシャトル「コロンビア」は、大気圏突入後、米国東部上空で空中分解して7名の宇宙飛行士が帰らぬ人となった。この衝撃的な事故の中継をテレビニュースで見たとき、多くの人々が17年前の1986年1月28日に起きたスペースシャトル「チャレンジャー」の悲劇を想いおこしたにちがいない。あのときには世界中の人々が輝かしいチャレンジャー号の打ち上げの様子を、テレビ中継で見守っていた。乗務員の一人である女性高校教師のクリスタ・モコーリフの教え子たちがテレビ画面に見入っている様子も映し出されていた。その直後、宇宙に向かう「チャレンジャー」の爆発事故が画面に鮮明に映し出されたときの衝撃は、まだ世界の人々の記憶に新しいのではあるまいか。事故直後直ちに調査委員会が編成されて飛散した機体の回収が進められ、直接原因はもちろんのこと、組織の欠陥にいたるまで徹底的な調査が行われた。その結果、明らかにされた一つの大きな問題点は、NASAの事業を担当していた企業・MT社の一人の技術者ロジャー・ボイジョリーが、事故の可能性を危惧して打ち上げの中止を提言していたのに、それが生かされなかったことである。技術者の倫理を語るとき、この「チャレンジャー」の事故は、必ずといっていいほど取りあげられる。それはなぜか?
私たち建設技術にかかわる科学技術者は、それぞれの関係分野の専門職(profession)として創意工夫と努力によってこの分野の技術レベルを上げ、公衆の信頼の下にそれを社会に生かす義務がある。同時に、その技術の行使に際しては、高い倫理観が求められる。どんな高度な科学技術も、使い方が問題となるからだ。また最近では、科学技術者の倫理観の欠如や低さからくる事故や不祥事も多発している。加うるに科学技術基本計画や日本技術者教育認定機構(JABEE)の教育要求水準・APEC Engineerの登録などでは、技術倫理を身につけることが要求されている。こういった点をふまえ、地盤工学会では、2002年5月に従来の定款などをもとに、建設技術にかかわる技術者・研究者・教育者が日常業務上の指針とすべき「地盤工学会倫理綱領」を制定した。
倫理観は社会生活をおくる上ですべての人間が当然備えているべきものであるが、倫理に関する理解と行動には個人差がある。しかし、地盤工学という技術を扱う専門職として守っていくべき技術倫理があるはずで、地盤工学会ではそのガイドラインとして「地盤工学会倫理綱領」を定めた。この倫理綱領は身近なものとしてもらうことをねらって、極めて簡素な記述となっている。だが現実には、幅広くいろいろのケースで倫理観が問われる。したがって倫理綱領を補完する意味もあって今回、『地盤工学に関わる倫理事例集』を作った。本書は技術者の鑑ともいうべき八田與一についての物語の第一部と事例集の第二部からなり、後者はさらに12の事例と三つのエピソード、紙面各所に散りばめた五つの倫理事件簿から構成されている。一人の科学技術者として、どのように行動すべきかを考える際の参考になればとの思いで作られた小冊子である。事例数も少なく広範囲を網羅しているわけではないが、技術倫理を考え、それを日常業務に生かしていくうえでの糸口として利用していただければ、幸甚である。

平成15年6月
「君ならどうする?」-建設技術者のための倫理問題事例集-編集委員会